無用の用

 先日2025年のノーベル化学賞を受賞された京都大特別教授の北川進先生は「無用の用」を座右の銘とされているそうです。受賞の会見の場でもその言葉を仰っていたのがとても印象に残りました。

無用の用という言葉の由来は「荘子」の思想からだそうで辞書を引くと~全く必要が無いと考えられていたものが、実は非常に重要な意味を果たしていることを意味することわざ~この世で役に立たないものは存在しないということを指す表現~とあります。北川進先生は「無用の用」を座右の銘として、内部に無数の小さな穴が規則的に並んだ材料「金属有機構造体(MOF)」の研究を続けられたことが今回の受賞につながりました。

たとえ即効性が見られない事柄についても、自分の関わっているものが何の役に立つのか、どういう意味を持つのかということについて考え続けることは分野や業界を超えてとても大切なことだと改めて感じています。

さてダンスは社会活動の上でも、またはひとりの人間が生涯を過ごす上で、必要不可欠なものかというと必ずしもそうとは言えないものだと思います。仮にこの世界からダンスが消えてもすぐに社会活動に支障が来されることは無いでしょうし、ある1人の人間が生涯の内にダンスを一度も踊らなくても十分幸福に人生を過ごすことは出来ると思います。

しかし人類の歴史の中でかなりの期間踊るという行為は人間社会の中に存在し続けてきました。形を変え流行に変化はありつつも人間が踊り続けて来たこともまた事実なのです。

現代社会の中でストレスなどからの解放であったり、あるいは自己表現の方法であったり、ダンスはどちらかというと趣味的なものとして、主に精神的な面での健康に寄与することが注目されてきたと思います。一方ここ最近ではそれに加えて手と足で別々の動きをしたりマルチタスクを行う機会がたくさんあること、音楽の力で無理なく有酸素運動ができること、そして特にペアで踊るダンスにおいては、信頼のおける者とのコミュニケーションやスキンシップを行うことで、不安やストレスを軽減する働きのある幸せホルモンとも呼ばれている「オキシトシン」の分泌が促されるとして、身体的にも健康に寄与することが様々な研究から明らかとなり、期待も高まってきていると感じます。

そうした状況の中で、もちろん純粋に趣味としてダンスを楽しんでいただけるだけでも十分有難いことではあるのですが、ダンスを生業とする我々は今もう一度「無用の用」という視点からダンスを見つめてみる必要があるのではないかと感じます。ひとりでも多くの方に、ダンスと出会って良かった、ダンスが踊れることでこんなにも役に立った、あの時ダンスを始めていたから今の自分がある、と思っていただけるレッスンや活動が出来ているか、特に日本国内で社交ダンス人口の減少が続く昨今、そう考え行動し続けることが必要だと強く感じます。

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